苦難の道を進みながらも順調なペースで「中蒜山」まで到着。
このままの勢いでまだ見ぬ「下蒜山」を目指します。
蒜山三座の2番目の山【中蒜山】の頂上で昼食休憩をとり、お腹が満ちたところで縦走を再開。
目指すのは蒜山三座最後の頂【下蒜山】。
これまで緩やかだった山道は急な下り坂へと変わり、今まで以上に険しい道が続きます。
視界を遮るように生い茂る林を抜けると、遙か遠くに存在感のある山が確認できました。
おそらくあれが【下蒜山】。
「遠い・・・」
ここから目測するだけでも今日中に辿り着くのは無理じゃないのか?と感じる程の距離に呆然とします。
さらに追い打ちをかけるように山道はどんどん激しさを増していきました。
大きめのゴツゴツした岩場の坂を登り、
急勾配に配置された鎖のロープを頼りにゆっくりと下山など、「アスレチックコース」と比喩してもなんら問題ないような登山道にどんどん体力が削られていきます。
さらにお昼を過ぎたあたりから気温が上昇。
登っては水を飲み、下っては休みを繰り返し、激しい運動量と相まって汗が流れ続けます。
この頃になると体力的な余裕もなく「とりあえず前へ進む」以外のことは考えることができない状態となっており、小休憩の間隔がどんどん短くなっていきました。
いつもより多めに用意していた4Lもの水が“残り500ml”となったのを目の当たりにして焦りますが、水を補充しようにも下山する以外の方法で解決策は無く、腹を括り前を見るも・・・ ゴールはまだまだ遠い・・・
無意識に振り返り、今まで歩いてきた道を目でなぞっていきます。
山の尾根(一番高い箇所)が緩いカーブで描かれており、自分が歩いてきたルートが浮き彫りに。
改めて知るその長い距離に圧倒されながらも、自ら築き上げた偉業を目の当たりにしたことで、少しずつ精神力が回復していくのを感じます。
さらに30分ほど進み、笹の道を越えると・・・
おもむろに姿を現した「下蒜山」頂上の看板。
山頂の気配もなく本当に“パッ”と現れたので
「辿り着いた!!」
といった類の感動はなく、
(え?山頂着いたの? マジで?! )
と若干拍子抜けした感覚でした。
入山からすでに7時間が経過。
中間地点とはいえ辿り着けた安堵感から、座り込んだ腰が言うことを聞きません。
このまま動きたくないのが本音ですが、如何せん日暮れのタイムリミットが近付きつつあります。
山の中で夜を迎えるのはリアルで死活問題のため、残り少なくなった水をひとくち含んで下山を開始しました。
「下蒜山」から見えた下山道。
一見判りにくいですが、なめらかな直線で伸びる道が確認できます。
今まで歩いて来たどのルートよりも周囲の視界が抜群に開けており、しばらく下山のことを忘れて景色を眺めていました。
標高1,000mを越えること周囲に視界を遮るものがないことから“高いところに立っている感”が全力で強調され、地面に吸い込まれそうな感覚に襲われます。
高所恐怖症の自分を行動不能にするには十分過ぎる高さであり、足がすくんでしまったことからスローペースな歩行を余儀なくされました。
残された時間に焦りながらも慎重に歩を進め先を急ぎます。
高度もそこそこ下がり、勾配が緩やかになったのを感じて足を止めます。
休憩ついでに後ろを振り返ると、絵に描いたような一本道がそこにありました。
そして見上げた「下蒜山」。
沈んでいく夕日と山脈の情景に、今までの疲労がどうでもよくなる程の満足感に満たされていました。
目の前に広がる“金色の野”( 意訳 )
( これ・・・「ナウシカ」で見た)
やっぱり山登りっていいなぁ・・・ここまで来れて、この景色を見ることができて本当によかった。
心からそう思いながら、ゆったりと用意された道を一歩ずつ踏みしめて歩いて行きます。
登りのコースが
「急勾配」→「ゆったりとした道」だったことから、
下りのルートも
「急な下り坂」→「ゆったりとした下山コース」 と推測。
これから先はこんな優しい道がずっとず〜っと続くんだ!
と、思ってました。
【蒜山】「“このままゆったりとした道で帰してやる”と約束したな。あれは嘘だ。」
現れたのは今まで経験したどの登山道よりもアウトローな下り坂。
山の神から受けた全力の“アメとムチ”にヒザをガクガクさせながら、残しておいた体力を惜しみなく使って歩いていきます。
この時点で17時30分・・・
山の向こう側に見えていた太陽は姿を消し、辺りが分刻みで薄暗くなり始めました。
「野営・・・ 野宿」 なる単語が浮かんでは消えます。
「あっ!」
あぁッッッっ!!」
「出口やぁぁぁあああああああああ!!」
永久に続くと思われた坂道で折れ掛けた心のがともし火が 「出口」を指し示す看板 ひとつで再燃。
目の前に広がる湿地帯もモロともせず、全力で駆け抜けて無事ゴールへ辿り着きました。
ホッとひと息ついて見つめる「下蒜山」の出入り口。
時計を確認すると「18時」。
人の気配は全くなく、車ですら1台も通りません。
下山してすぐの場所にあった施設(後に調べたら火葬場でした)で小休憩。
「これからタクシーを呼んで、夕飯食べてから近くの温泉に入って・・・」
無事に縦走を終えた安堵感から今までの疲れはどこ吹く風。
これからの予定を算段しながら胸躍らせていました。
長い登山でしたが満足度は達成感は半端なく、縦走がさらに好きになった一件でした。